最終選考会では、2名の最終選考委員が、第1次選考を通過した13作品を1作品ずつ検討した結果、中学生の部で最優秀賞1作品と優秀賞1作品と特別賞1作品、高校生の部で最優秀賞1作品と優秀賞2作品が選ばれました。


第1次選考を通過した作品への、最終選考委員からの感想やアドバイスをご紹介します。ぜひ、これから文章を書くうえでの参考にしてください。

 

 

小西 和弥さん(中1)
    『モモ』
(ミヒャエル・エンデ作/大島かおり訳/岩波書店) 


金原ディストピアの中でどう生きていくか、どうやってこんな状況を切りぬけるか、それとも破滅してしまうのか、そんなことがよく考えて書かれています。ただ最初に結論を持ってきて、後から説明していくという形はいいんだけど、言いたいことがたくさんありすぎてうまく展開できていないのがちょっともったいない。ひとつのテーマに絞ってじっくりまとめる書き方をすると、さらにおもしろいものが書けるんじゃないかな

 

田中「どうして、みんな騙されていくのだろう。」という出だしの一文が抜群に効いていますね。そのあとの、騙されることに関する考察も、本の内容と自分を重ねてうまく書けています。「もともと作者の心のなかにあったことを書いた物語」という話から、カメや円形劇場につなげる書き方もうまいです。それだけに、他の部分と比べて「この物語は、一人の女の子と時間泥棒たちとの話」のところが、比重が少ない印象でした。もう少し詳しく知りたかったです。それにしても、いろいろ読んでいますね!

 

 

小西 和弥さん(中1)
 『モロー博士の島』
(H・G・ウェルズ作/雨沢泰訳/偕成社)

 

金原本の紹介を、雑学的な周辺知識で構成しているところはおもしろいね。よく知っているし、幅広い読書をしているのを感じます。ただ、『フランケンシュタイン』や『ドラえもん』など、別の作品を出してきて『モロー博士の島』のユニークな点を紹介しようとしているのはとてもいいんだけど、どこがどう似てるのか、同じ発想でもどう違うのか、時代によってどんな変化が表れているのかなど、もう少し詳しく比べてみると紹介文の魅力が増すと思います


田中『宇宙戦争』が好きで、同じ作者の本を手にとったとのこと。そういう本の読み方も楽しいですよね。作者について、本について、よく調べてきっちり書きあげていました。そうしたさまざまな情報をまとめることで、本の魅力を伝えるというのも、紹介の方法のひとつですね。また、この本を読んだことで自分の中に導きだされた考えをなんとか言葉にした点も、お見事でした。ここまで書けているので、本の内容についても、もっと読みたかったです

 

 

坂本 凛華さん(中1)
 『サイエンス・クエスト 科学の冒険』
(アイリック・ニュート作/枇谷玲子訳/NHK出版)


金原本を紹介するときに、どういうところを引用してそのおもしろさを伝えるかということに関して、とてもよくわかっている。パイの具体例など、目の付け所がいいし、紹介のしかたもユーモラスで、とても楽しく読みました。ただ、最後が「この本は、「楽しい」の一言に尽きる」で終わってしまっているのがちょっと残念。そこに至るまでに楽しさを十分に伝えてきているわけだから、まとめ方をもう少し考えるとさらによくなると思います


田中科学や数学は苦手、という人にも(という人にこそ)タイトルだけで敬遠せず、ぜひ読んでほしい、という熱意にあふれたレビューになっていました。たしかに、この本、おカタい感じじゃないですよね。作文もそれを汲んで、ユーモアを交えた語調にしています。「地獄だコノヤロー!」「てんこ盛り」といった、くだけた言葉をところどころ入れると、唐突で浮いてしまう場合も多いのですが、この作文では効いていました

 

 

山内 翼さん(中2)
 『エジソン ネズミの海底大冒険』

『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』

『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』
(トーベン・クールマン作/金原瑞人訳/ブロンズ新社)

  

金原3作品を比べて、おもしろいところを取り上げて紹介していて、それぞれの巻の仕掛けなどもうまく読み取れているなと感じました。作中のセリフの引用も上手で、楽しい。よく読み込んでいるのを感じます。本の紹介はとてもうまく書けているので、つぎは読み手のことも意識しながら、さらに一歩ふみこんだ自分の考えも書いてほしいです


田中「きっと授業のノートもきれいに整理して書かれているのだろう、と想像できる作文でした。3作品について、とても読みやすくまとめていまね。自分がおもしろいと感じたこと、気に入っているポイントを、しっかり言葉にできています。それをまとめることで本の内容の紹介になっている点がいいと思いました」

 

 

大場 日菜子さん(中3)
 『華氏451度』
(レイ・ブラッドベリ作/伊藤典夫訳/早川書房)

 

 金原考える姿勢が最初から表に出ていて、おもしろい。みんな戦争というものを意識しない、恐ろしさを理解できないというところは、まさに現代の世界中で起こっている戦争の理由が理解できない我々のことを言っているんだろうね。この作品が現代とシンクロしていることがよく読み取れています。説明もうまいし、よく書けていると感じました。結論にある「情報を選り好みせず仕入れる」というのは、なかなか大変なことだけどね


田中要約がよく書けていて、そのあと、今の自分をとりまく状況と本の中の状況をうまく絡めて考察できています。考えを「人に伝わる文章」に変換する能力の高さを感じました。ときおり挟まれるストレートな感想が、この作文では活きていますね。「この話は~未来予想と捉えることができる」という考えから、「この本を創作にしておくために」というまとめにつなげていく過程もうまかったです。本のキーワードである「情報」について、今を生きる自分にぐっと引きつけて考えをまっすぐに書いた、すばらしい作文でした

 

 

瀧川 にしかさん(中3)
 『動物農場』
(ジョージ・オーウェル作/山形浩生訳/早川書房)

 

 金原最初に問題提示があって、それを受けての説明、展開があり、最後に提言がある。はじめかわらおわりまでひとつのテーマに絞って、よく考えて書けています。ルールを育てるというのが具体的にどういうことなのか、ルールを変えることとどう違うのか、そこが鍵になるので、そういう点をさらに突きつめて考えてみてください


田中論理的な書き方がうまいです。たとえば、「一見すると掟自体が「自由」と「平等」を分断してしまっているのだ。それはどういうことか。確かに~」というふうに、段階をふんで進むので、それが文章のリズムにもなって読みやすさにつながっています。自由と平等、そしてルールについて、自分の考えをしっかり積み上げて、最後に結論を導く。本の内容からそれることなく、ひとつの問題をとことん考察している力強い作文でした

 

 

匿名希望さん(中3)
『ビッグ・クエスチョン〈人類の難問〉に答えよう』
(スティーヴン・ホーキング作/青木薫訳/NHK出版)

 

 金原うまいなあと思いました。これをビブリオバトルでやったら、聞いている人は、今すぐ本を手に取って読みたくなるんじゃないかな。ただ作文として文字で読んだ場合、本の紹介だけだとやや物足りない印象になるのが惜しい。それから、いま人間は地球環境を破壊していて、このままでは地球環境に適合できなくなるので、宇宙開発に力を入れるべきだという考えは、昔からSF小説ではよく使われてきたけど、どうなんだろう。地球環境を改善することに力を入れるほうが現実的ではないかという意見もあるから、それについても考えてみると、おもしろいと思います


田中最初の二段落で、この本の内容、自分とこの本との関わりを、テンポよく簡潔に示すことで、一気に読者を作文に引き込めていますね。ふだんから「我々はどこから来たのか。我々は何者なのか。我々はどこへ行くのか」という疑問をもっていて、この本をその考察の材料にしたかったとのこと。そんなふうに本を読めたら、知の冒険のようで楽しかったことでしょう。知ることの喜びにあふれた作文です。「この本おもしろかったから読んで!」という熱いレビューにもなっていました

 

 

椚山 亜莉沙さん(高1)
 『星の王子さま』
(サン=テグジュペリ作/池澤夏樹訳/集英社)

 

 金原この作文はエッセイとして、とてもよく書けているね。『星の王子さま』を契機に、自分の感じたこと、考えたこと、思い出したことを、うまくまとめて文章にできている。欲を言えば、きれいにまとまりすぎているかな。難しいけれど、どこか先が読めてしまうところが、ちょっと惜しかった

 

田中お兄さんの写真にあった本から、自分とその本の思い出、本の内容へと移って、お兄さんの記憶と本の内容が呼応していく……。作文として読み物としてすばらしかったです。タイトルと、文の運び方もいいですね。本の中の言葉というのは、まるで自分に向けて書かれたかのように感じられることがあります。ちょうどその言葉を必要としていた、ということもあるでしょう。そのときまでにその言葉を受け入れられる用意ができていたから見つけて受け止められた、ということもあるでしょう。いずれにしても、そんなふうに、絶好のタイミングで自分のための本と出会えるのは幸運なこと。15歳の今だから理解し、心に響いたのだと思いました

 

 

ドーソン ディーン博真さん(高1)
 『エジソン ネズミの海底大冒険』
(トーベン・クールマン作/金原瑞人訳/ブロンズ新社)

 

 金原細かいところ、ちょっと気がつかない点にまで目配りをしながら作品の紹介をしているところが素晴らしい。冒険小説なのに書店の棚に『海底二万里』がないことやその理由など、ぼくは気がついていなかったので、おお、すごいなと思いました。こんど、作者のクールマンさんに会ったら、きいてみます。平凡な風景に隠されている「小さなもの」を見つける楽しさというところに焦点をもっていっているのもよかった

 

田中ページのすみずみまで見ていろんな発見をするのは、絵本の楽しみ方の王道ですよね。絵を分析することで作者の意図を読み解こうとしている点がよかったです。作家が盛り込んだ仕掛けを見落とさないぞ、という楽しい戦いぶりが伝わってきました。『海底二万里』については、作文の書き方も工夫されていてお見事でした

 

 

北條 倫久さん(高1)
 『そして誰もいなくなった』
(アガサ・クリスティー作/青木久恵訳/早川書房)

 

 金原がんばって読んで、がんばって書いたことが伝わってきます。最初に、あまり翻訳書を読んだことがないと書いているけど、あらすじのまとめ方、紹介の仕方もきっちりできている。一生懸命さに好感が持てる作文だった。これをきっかけに、いろいろな本を読んでほしいと思います


田中手にとったきっかけ、作家について、作品について、と手際よく書き進めていますね。文章や構成のうまさが際立っていました。文末の処理とリズムもいいです。物語の内容より、作家の文章や構成といった技術面に注目していたので、書くことが好きなんだろうと感じました。これを機に、ほかの翻訳書もぜひ読んでみてください

 

 

室井 怜音さん(高1)
 『ノートル=ダム・ド・パリ』
(ユゴー作/辻昶、松下和則訳/岩波文庫)

  

金原燃えてしまったノートル=ダムの痛々しい姿を巧みに描写するところからはじめて、作品の話へつなげていく、このへんから引きこまれました。ノートル=ダムを上からながめる一方で、細部をていねいに見ていくところもうまい。ユゴーが描こうとした作品の特徴をよくとらえていますね。登場人物とノートル=ダムの関係から悲劇的な結末に結びつく流れのとらえ方も、なるほどと思わされる。結びのところを肯定的に論じているのも、若者らしくて好感がもてます


田中ノートル=ダムの火事は全世界に衝撃を与えました。ニュースを機に関連した本を読みたくなるというのは自然なことですよね。建物の描写や歴史などが延々と述べられつつ、物語が進むという本なので、あらすじをとらえてまとめるのは大変だったと思うのですが、しっかり自分の中で咀嚼して書けているのは、あっぱれでした。ハッピーエンドを信じているという結論も自分の言葉でしっかりとまとめられていて、若者らしさが光っていました。これからも、好奇心の赴くままに読んで書いていってほしいです

 

 

柳 雄輔さん(高1)
 『変身』
(カフカ作/高橋義孝訳/新潮文庫)  

 

 金原古典的な作品には、ある意味、普遍的なものがあるから、昔とは読まれかたがちがっても、核になっている部分は同じように伝わってくるというのが、この作文を読んでよくわかった。介護を必要とする老人や重病人を抱える家族のつらさや愛情について考えているところは、現代の若者らしいと思う。自分の経験にひきつけて、無理なく自然に書けているのがいいですね

 

田中虫になる→コミュニケーションをとるのが難しくなる→介護が必要になる、と考えていって、本と今の社会問題を重ねて考察しているところが非常に興味深かったです。あらすじも、自分の主張も、わかりやすく伝えられています。祖父との体験を書くことで、説得力が増していますね。古典を若者らしい今の視点でとらえた、優れた作文でした

 

 

牧野 生実さん(高2)
 『封神演義』
(許仲琳作/渡辺仙州訳/偕成社)  

 

 金原本について、自分の体験をうまく結びつけながら語っていて、おもしろく読みました。作品の魅力も伝わってくるし、あらすじのまとめかたもうまい。中国のことが好きで、よく調べて勉強しているのもわかる。堂々と『封神演義』を語れる資格も知識もあって、それをしっかり文章にできて、すばらしいと思う

 

田中読書の猛者、現る! 小3のときにこの長編を読みこなすなんて、すごいです。本をたくさん読んでいるだけあって、読ませる文章を心得ています。この本との出会い、ご自分の本とアニメの遍歴、高校生で読み返したときのこの本の印象など、どのエピソードも読み応え抜群! そのため、かえって、ワインの香りや侘び寂びの例が、実体験から離れた印象を与えてしまい、惜しかったです。すてきな物語を読ませてもらいました

 

     

総評

 

今までもユニークな作文が多かったのですが、今回はさらにそういうものが増えたような気がしました。学校で教えられる優等生的なものではなく、個性的で、自分なりのこだわりがいい形で表現できている作文は読んでいて楽しいものです。一方、ひとつ気になったのは、ビブリオバトルの影響かもしれませんが、取り上げた作品のおもしろさを紹介するだけで終わっているものがいくつかあったことです。ビブリオバトルの場合は、聞いた人が、その本を読みたくなるかどうかが問われます。しかし、読書探偵の作文の場合は、書かれた作文そのものがおもしろいかどうか、それが問われます。いってしまえば、取り上げる本はどうでもいいのです。どう紹介しても絶対におもしろいと思えないような本を取りあげて、すごくおもしろい作文が書ければ、最優秀賞に選ばれることもあるでしょう。(ただ、それはとても難しいので、読み応えのある本を選ぶほうが無難です。)そんなことも考えてみてください。

金原瑞人

 

翻訳書を、読んで、書く、という3つ(あるいはそれ以上の)ハードルを越えて応募してきてくださったみなさん、ありがとうございました。1次選考委員も最終選考委員も、心して作文を読んでいます! 1次通過を果たせなくても、がっかりしないでくださいね。必ず自分の糧になっていますし、関係者一同、その挑戦をしっかり受け止めています。全員に賞をお渡ししたいくらいなのですが、今回は優秀賞と特別賞を予定より増やすところで落ち着きました。さて、受賞作に関してですが、今回はじっくり考えてそれをうまく伝えられた作品が多くを占める結果となりました。本を読んでいると、さまざまなことが頭に浮かびます。せっかく考えたことなので、作文にすべて盛り込みたくなるところですが、そこをぐっとこらえて、書くテーマをしぼると、完成度が高くなることが多いと思います。しぼったことで、逆に言葉が足りていない部分も見えてくるでしょう。ぜひ作文の参考にしてみてください。……と主に感想文に当てはまることを書きましたが、このコンクール、たとえば二次創作でも、短歌でも、書き方はなんでもOK。読書を楽しんで、書くことを楽しんだ者勝ちです! 来年もご応募をお待ちしております。

田中亜希子