最終選考会では、2名の最終選考委員が、第1次選考を通過した11作品を1作品ずつ検討した結果、中学生の部で最優秀賞1作品と優秀賞1作品、高校生の部で最優秀賞1作品、優秀賞1作品が選ばれました。

 

第1次選考を通過した作品への、最終選考委員からの感想やアドバイスをご紹介します。ぜひ、これから文章を書くうえでの参考にしてください。

 

 

 

肥田 典さん(中1)

    『十五少年漂流記』

(ベルヌ作/大久保昭男訳/ポプラ社) 


金原文章を書きなれている人ですね。語尾の処理なんかもうまくいっています。そして、自分の経験をしっかり書けているところがいいです。ただ一点、本のなかで少年たちは途中で仲間割れをするので、そこが違っているのが惜しい。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』という本と比較して考えているところは感心しました。こちらの点をもう少し詳しく書いてくれると、さらによくなるかな

 

田中リズムのある文章で、よくまとまっている作文です。自分を冷静に分析して、本のなかの状況と比べている点も、説得力のある書き方になっています。せっかくここまで書けているので、『十五少年漂流記』の印象的なシーンを出すなどの工夫があると、この本の魅力がさらに伝わるように思いました。たとえば、多様性を認め合うことの大切さが伝わるシーンなどがあれば、『ぼくはイエロー~』の例と響き合って、さらにすばらしい作文になったと思います

 

 

和佐田 真理子さん(中1)

 「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」(全6巻) 

(クリス・コルファー作/田内志文訳/平凡社)

 

金原熱量の高い、勢いのある作文だね。よくこんなにしっかり書いたなあと感心しました。作品についてたくさん書きたい気持ちはよくわかるのだけど、論点をひとつかふたつにしぼって詳しく書いたほうが効果的です。たとえば「彼の作品には、社会的に孤立した人物が沢山登場します」と書いているところは、そこで終わらせずに具体的な例をあげてくれると、読んでいるほうもうれしい。しかし、熱い気持ちが非常によく伝わってくる、とても素直ないい作文でした


田中読んでいると、こちらまでわくわくしてくる、楽しくて力強い作文。シリーズ全体をこんなに好きになってもらえて、作者も訳者もどんなにうれしいことか。ご自分の「好き」を、言葉を尽くして表現しようとしている点が好ましかったです。大好きなシリーズだけあって、6冊もある本の特徴をしっかりとらえていますね。惜しいのは、もっと読みたいと思わせる箇所と、重なり気味の内容が繰り返される箇所があるところ。もう少し整理できそうです。それでも、この作文は魅力いっぱいで、本への深い愛がストレートに伝わる書き方になっていました

 

 

安藤 貴久子さん(中2)

 『おくりものはナンニモナイ』

(パトリック・マクドネル作/谷川俊太郎訳/あすなろ書房)


金原「ナンニモナイは白紙のようなもの」という着目点がすごくいいと思う。大切なものを見つけていくためのひとつの道具としてナンニモナイを使う、ということだよね。だとしたら、そこに自分なりの具体的な例やアイディアや実際の体験を入れると、さらに興味深い作文になると思います。「本当に大切なもの」という大事なことを伝えようとしていると思うので、もっと突きつめて書いてみるのもいいよね。次回も期待しています


田中思考の流れと本の紹介をうまく組み合わせて書いてありました。「大切なものは何か」と考えたときに、この絵本が思い浮かんで、そこから「ナンニモナイ」という物語のキーワードにたどり着くという流れが自然です。自分の考えをしっかり書けていました。最後の一段落に関しては、もっと文字数をさいてもいいかもしれません。全体を端的にまとめてくれているのですが、結論の部分はもう少しくわしく知りたくなりました

 

 

伊井 悠馬さん(中2)

『アクロイド殺人事件』

(アガサ・クリスティ作/茅野美ど里訳/偕成社)

『アガサ・クリスティー自伝』

(アガサ・クリスティー作/乾信一郎訳/早川書房)

  

金原クリスティーとこの作品にまつわるネタをうまく使って裁判形式の読み物にするというアイディアがいいですね。そのなかで、『アクロイド殺人事件』の魅力やおもしろさについても語っている。ヴァン・ダイン、おもしろいよね。そこを選んできているのもいいです。作者のクリスティーを証人として呼んで自作について自身に語らせる、という発想がいいし、語っている内容がちゃんとクリスティーらしくて説得力があった


田中「『アクロイド殺人事件』と『アガサ・クリスティー自伝』から発想を得た二次創作です。裁判という形で『アクロイド殺人事件』を語る。その発想が秀逸です。会話だけで物語を作る文章力もすばらしい。結論を「陪審員代表」に語らせて終わらせるところは、陪審員制をわかっているからこそ書けることで、感心しました。クリスティーの義兄ジェームズの言葉や作家ヴァン・ダインの「二十の禁止原則」といった素材選びもお上手で、それらをとても自然に会話にとけこませています。お見事でした!」

 

 

野口 陽妃さん(中3)

 『アウシュヴィッツの図書係』

(アントニオ・G・イトゥルベ作/小原京子訳/集英社)

 

 金原一般書として出ているノンフィクションを、中学生でちゃんと読んでいる点をまず評価したい。本が「人間として、人間らしく生きるための手段となった」「最強の武器にも、生きることをあきらめない希望にもなった」と自分の言葉でしっかりまとめています。本がとても大きな力を発揮することがストレートに伝わってきました。欲をいえば、さらにふみこんで書いてほしいところもあるけれど、全体としてよく書けています


田中この本は、アウシュヴィッツ強制収容所で十四歳の少女が密かに図書係になって本を守るというシビアな内容なんですよね。自分と同い年の少女の命がけの行為に対して、素直に感動していることが伝わってくる、すてきな作文でした。導入、簡単な本の紹介、考察、と段階を踏んできっちり書いていっています。引用の入れ方もうまいです。こういう本を読めるのは頼もしいかぎり。これからもいろんな本を読んでいってください

 

 

古田 和香奈さん(中3)

 「ハンガー・ゲーム」シリーズ

(スーザン・コリンズ作/河井直子訳/メディアファクトリー)

 

 金原「恐怖」と「欲望」というふたつのキーワードで自分の主張を力強く展開させているね。ただ、社会批判的な論点ですべてを切ってしまうと、作品ならではの魅力が感じられなくなってしまう。そこが少し気になりました。とはいえ、テーマを据えて自分なりに切りこんでいく力はすごいよね。荒削りな部分もあるけれど、今後が楽しみです


田中きりっとしたリズムで論理的に話を進められています。日ごろから本をたくさん読んでいることが伝わってくる文章です。後半で、自分の言葉で自分なりの結論をしっかり導きだしているのもすばらしい。すっきりした作文なので、わざと省いたのかもしれませんが、コリンズやスノウホワイトといった名前にはひと言説明があると、このシリーズを読んだことのない人にも魅力が伝わりやすいと思いました

 

 

長谷川 彩華さん(高2)

 『ザ・ディスプレイスト 難民作家18人の自分と家族の物語』

(ヴィエト・タン・ウェン編/山田文訳/ポプラ社)

 

  金原長さといい熱量といい、すばらしい。『ザ・ディスプレイスト』の本の紹介としては、とてもよく書けていると思う。読みどころをしっかりつかまえていて、まとめ方もうまく、視点もぶれていない。紹介文としてはほぼ満点じゃないかな。後半の、自分に関心のあることにからめて書いた結論の部分で、自分との関わりあいなどを詳しく書くと、さらにおもしろくなる気がします


田中十八編の物語が集まった本を紹介するのには、いくつかやり方があると思うのですが、この作文は、印象的な物語を数編選んで、それぞれを要約し、それぞれに考察をつけ、最後に全体をまとめる、という形をとっています。ひとつのいい方法ですし、うまくいっていると思います。最初に統計の数字を出したことで、説得力も増しています。何より、これだけの量を最後まできっちり書きあげる力に感心しました

 

 

木村 港さん(高3)

 『アレクサンドロス大王の野望』

(ニック・マッカーティ作/本村凌二監修/原書房)

 

 金原英雄を見ながら死んでいく兵士の短い物語。高校生でこのくらい書けるのはすごい。ただ、僕は戦記物・英雄譚が好きだから、かえって評価が厳しくなってしまうんだけど、この作品の場合、兵士もアレクサンドロスもテンプレになってしまっている。どちらかの個性を書きこんでやると、もっとおもしろくなる気がした。とはいえ、こういう作風のものが出てきたことはとてもうれしい。評価したい

 

田中二次創作ですね。読んだのは、アレクサンドロス大王の生涯について書かれた「絵解き世界史」というシリーズのいわゆる図録のような本。それにインスパイアされて、あこがれの英雄、アレクサンドロス大王の精鋭部隊の一兵士の物語を書きあげたのですから、脱帽です。独特の語調で、英雄のために死にゆく一兵士の悲哀と英雄の野望の大きさを描いています。その想像力と文章力に感心しました。ほかの作品も読んでみたいです

 

 

小林 侑香子さん(高3)

『少年の日の思い出』

(ヘルマン・ヘッセ作/岡田朝雄訳/草思社)

 

 金原新訳を読んだとき、前に読んでいた訳と違っていてショックを覚えることは当然あるし、それが大切に繰り返し読んでいたものなら、なおさらだよね。この作文からは、何より、中学で読んだ『少年の日の思い出』がとても好きだという気持ちが伝わってきました。訳の言葉遣いに熱く反応しているところは好感が持てます。言葉の感性が鋭いし、自分の気持ちの表現の仕方もうまい。僕のなかでは評価が高い作文です

 

田中同じ原作の訳違いを読んだのですね。大切に思っていた言葉が新訳で違う言葉になっていたショックと、前の訳に対する愛情が、ストレートに伝わってきました。特に後半、本を読み進めながら、自分の違和感の正体をつきとめようとしていくところは、臨場感と緊張感があって、引き込まれました。そこまで大切な本、大切な言葉に出合えたのはすばらしいことだと思います。ぜひこれからも折々、好きな本を開いてみてほしいです

 

 

橘 志帆さん(高3)

 『月と六ペンス』

(サマセット・モーム作/金原瑞人訳/新潮社)

 

 金原登場人物のストリックランドが嫌いだ、という作文。嫌いというテーマで突き進むのもひとつのおもしろい書き方だよね。ただ、作文を読むと、ここに書いてあること以外にも、いいたいことがありそうな気がするので、そこをほりさげてみると、さらに作文に広がりが出たと思います。ある曲がきっかけでこの本を読んだとか、おもしろそうなネタが盛りこまれていたので、そこをもう少しふくらませてほしかったかな


田中「嫌いだ」と最初にいって、途中でその理由を順を追ってときほぐしていき、最後に「大嫌いだ」でしめる。文の構成が工夫されていて、うまいです。「かつて憧れた人物像が、巨大な羞恥心と劣等感により憎しみを覚えるものに塗り変わっていく感覚」という一瞬とらえどころのないものをうまく言語化できているところにも感心しました。「とある曲」の物語も読みたかったです

 

 

牧野 生実さん(高3)

 『封神演義』

(許仲琳作/渡辺仙州訳/偕成社)  

 

金原前回の作品もおもしろくてよく覚えているけど、今回さらにうまくなってるね。文章そのものもうまくなってきている。僕は中国ものが好きだから、『封神演義』の感想文への評価は辛いはずなんだけど、これはすばらしい。視点も独特で、こういう解釈があるのかとちょっとびっくりした。前回の延長ではあるけれど、全体の流れもよく、この人ならではの文章もあって、とてもおもしろかったです


田中審査では名前や学年を伏せて作文を読んでいますが、この作文は、前回のつづきだとすぐにわかりました(前回の作文も強烈に魅力的でしたから!)。今回も読んだ本は同じなのですが、違う角度から攻めていますね。本の魅力について、例をひとつひとつ巧みに取り入れながら書いているので、こちらは書き手の熱量に置いていかれることなく、一緒に興奮を疑似体験できました。とても熱い作文です。それでいて、ぎりぎりのところで冷静さを保っていて、そのバランスが絶妙。文章のまとめ方、表現の仕方がさらにうまくなっています。すばらしい仕上がりでした!

 

 

 

     

総評

 

 この「読書探偵作文コンクール」というのはとてもユニークなコンクールで、なんでもいいから翻訳本を読んで、何か書いてみよう、というものです。なので、高校生の人が文章の少ない絵本を取り上げてもいいし、中学生の人が一般書を取り上げてもいい。感想文を書いてもいいし、読んだ本をもとに物語を作ってもいい。そのうち、絵本を描く人も出てくるのかもしれない。「作文コンクール」だから文章がなくちゃいけないんだろうけど。

 というわけで毎回、いったい今年はどんな作品が出てくるのかわくわくしながら読んでいます。今回もとても楽しく読みました。来年もまた楽しませてください。

金原瑞人

 

 今年度は新型コロナウィルスの影響から学校のスケジュールが変則的になるなかで、コンクールがおこなわれました。気持ちが落ち着かない状況で、翻訳書を読み、作文を書いて応募してくださったみなさん、ありがとうございました。1次選考委員も最終選考委員も、気を引き締めて審査にのぞみました。1次通過を果たせなくても、がっかりしないでくださいね。たとえば、大好きなゲームのことを存分に語った作文など、選考は通りませんでしたが、関係者一同、感心したり感動したりした作文はたくさんありました。みなさんの挑戦は、しっかり受け止めています。さて、受賞作に関してですが、今回は本をたっぷり読んでたっぷり書いた作文が占める結果となりました。とはいえ、これはぐうぜんで、たくさん読んで、たくさん書いた方が選考に有利ということはまったくありません。形式は、たとえば詩でも短歌でもなんでもOK。ただ、せっかく書くのですから、読む人に伝わるように書けるといいですね。一度書き終わったら、しばらくその作文を読まないようにして、あらたな目で読み直してみると、書いているときに気づかなかった読みにくさやミスに気づけることがあります。ぜひ試してみてください。いろいろ書きましたが、このコンクールでいちばん大事なのは、読書を楽しんで書くことを楽しむことです! 来年もご応募をお待ちしております。

田中亜希子