最終選考会では、2名の最終選考委員が、第1次選考を通過した13作品を1作品ずつ検討した結果、中学生の部で最優秀賞1作品と優秀賞1作品、高校生の部で最優秀賞2作品が選ばれました。

 

第1次選考を通過した作品への、最終選考委員からの感想やアドバイスをご紹介します。ぜひ、これから文章を書くうえでの参考にしてください。

 

  

 

アユさん(中1)

『モモ』

(ミヒャエル・エンデ作/大島かおり訳/岩波書店)

 

金原1年後の『モモ』を描いた二次創作。カシオペイアとか、『モモ』に出てくる登場人物たちの特徴を捉えて、うまく使っているね。創作したキャラクターの「オレ(灰色の男)」もよく描けていて、上司にツッコミを入れるあたりが、おもしろかったです。「こけてしまった」とか、ときどき出てくる言葉遣いも効いています。最後のところもしっかり考えられていました。やっぱり『モモ』が好き、ということなんだろうね。全体の構成は少しまとまりに欠けるけど、話がどんどん展開していって勢いで読ませてくれる、そんな茶目っ気のある作品です。分量もたっぷりで、よく書いたなと感心しました

 

田中本のつづきという形の二次創作で、三人称と一人称の話を交互に出していくという高度な構成で書いています。たとえば、ジジがおもしろいお話をみんなに語ったり、マイスター・ホラがなぞなぞを出したりと、本と同じ登場人物たちが特徴そのままに活躍していて、『モモ』を読みこんでいることが伝わってきました。一人称の話の主人公「オレ」も、悪役のはずの灰色の男でありながら、人のいいところがちゃんと描けていますね。後半、物語は迫力の大混乱に突入するのですが、欲をいえば、ここはもう少しだけ冷静になって書けると、さらにすばらしい内容になると思います。とはいえ、ラストもかっこよくて、お見事でした!

 

池田 天太郎さん(中1)

『ふたりはともだち』

(アーノルド・ローベル作/三木卓訳/文化出版局)

 

金原二次創作のマンガ。絵本に出てくるかえるくんとがまくんが好きで、がんばって描いたことが伝わってきて、楽しく読みました。おまけにつけてくれた画像からすると、かえるくんとがまくんの作品をほかにもたくさん描いているんだね。その熱意と努力を買いたい。ミニマンガ本のエピソードで、がまくんがおそなえもちを1回も食べたことがないのは、どうしてなのか、ちょっと気になったけれど、コンビニやスーパーが出てきたりするのも、今の中学生らしくて、おもしろいなと思いました

 

田中絵本に出てくるかえるくんとがまくんを主人公にした、四コママンガとミニマンガ本を送ってくれました。ほかにも作品が大量にあるそうで、相当な熱量が感じられます。そのパワーがすてき。特にミニマンガ本では、絵本の最後のエピソードをなぞりつつ、ひなまつりやお正月といった自分にとって身近な題材で創作しているところがよかったです。あとは、絵本の独得なのんびりのほほんとした雰囲気をマンガで再現できたら、さらに魅力が増しそうだなと思いました。が、とはいえ、これまで描きためたマンガが、すでにひとつの世界になっていることも想像できます。ですので、これからも楽しんで描いてほしいと思いました

 

 

大坂 倫通さん(中1)

『竹林はるか遠く 日本人少女ヨーコの戦争体験記』

(ヨーコ・カワシマ・ワトキンズ作/都竹恵子訳/ハート出版)

 

金原この本は戦争体験記で、とても危機的な状況が続く。きっと祈るような思いで読んだんじゃないかな。どうやったら無事に逃げ切れるのか、自分に引きよせて考えたのが伝わってきました。その必死の思いが作文ににじみでるほど、夢中になって読めたのは、いい読書体験だよね。最後に、現代のコロナに結びつけているところも、とてもよかったです。ただ、後半の考察で、短い話をいくつもならべているのは、どれかひとつにしぼったほうがいい。ひいおじいさんの話を中心に書くとか、コロナの話だけにするとかすると、さらに、おもしろい作文になりそうです

 

田中読んだ本は、戦争中に朝鮮北部を脱出した日本人の体験記です。作文を書いた方は、ひいおじいさんが満州からの引き揚げ者だったそうで、当時の様子を知りたくて読んだとのこと。たしかに、体験記は当時を知る手がかりになりそうですね。そして、この方の場合、本を読んで、戦争中と今のコロナ禍での人の心の共通点をみいだして、考察しています。自分なりの意見を文章にしている点はすばらしいと思いました。これからもさまざまな本を読んで、考えることをぜひつづけてください。そしていつか、この本を再読してほしいです。きっと発見があると思います

 

 

宮﨑 諒和さん(中1)

『ちいさいおうち』

(バージニア・リー・バートン作/石井桃子訳/岩波書店)

 

金原この絵本を、翻訳書だけでなく原書も読んでみたところが、英語を勉強している中学生らしいね。原書の表紙に「HER-STORY」と書いてあるのを見て、主人公のちいさいおうちが「女性」だと気づいたのは、すばらしい。ただ、コンクールに参加するときには、みんなが書きそうなことは削って、そうじゃないことをアピールするのがおすすめです。「HER-STORY」は、ほかの人はなかなか思いつかないと思います。そこをもっと書くと、さらにおもしろくなったと思います。「「彼女の人生」の物語は、子ども向けの絵本です」など、なにげない文章がうまくて、ここと最後の一文が呼応しているのも、感心しました

 

田中翻訳書だけでなく原書も手にとって、発見したり考えたりしたことを、作文にしています。あらすじをきちんとまとめられていますし、さりげなく光る表現が見受けられました。そして、なんといっても、原書の表紙に「HER-STORY」という言葉が書いてあることから、ちいさいおうちは女性(HER = 彼女)なんだと気づいた点はすばらしいですね! ところで、「HER-STORY」という言葉には、さらにひみつがあるんですよ。表紙にそう書いてあるということは、「この絵本は her story(彼女の物語)です」と書いてあるとも読めます。いいかえると、「his story(彼の物語)ではない」ということですよね。his story は、くっつけると、his(s)tory(歴史)。そう、「HER-STORY」は「HISTORY」をもじった言葉でもあるのです。歴史は、男の物語ではなく、女の物語でもありうるのですよね! 作文でも、ここをほりさげて書けたら、さらに興味深い内容になったと思います。ともあれ、誇っていい発見でした

 

 

大槻 奈々さん(中2)

『たのしいムーミン一家』

(トーベ・ヤンソン作/山室静訳/講談社)

 

金原ムーミン一家の特徴を自分なりにとてもうまくとらえていて感心しました。「ムーミンたちは冬眠をします。冬の厳しい寒さに対抗せず~みんなで眠ります。~春になっても、むりやりおきたりしません」とか、文章がユーモラスで、こういうセンスって中高生の作文ではなかなかないんだけど、うまく表現できています。じつは僕はいままでムーミンの物語にはあまり魅力を感じなかったのですが、これを読んで、「そうか!」と納得しました。読まなくちゃ!

 

田中短めの作文のなかに、物語の特徴をしっかり表現できていました。その理由のひとつは、物語の特徴を、数をしぼってピックアップして、そのピックアップしたものに関しては、それぞれ丁寧に言葉を尽くして説明しているからだと思います。また、この作文は、あらすじと意見をまぜた書き方になっています。そうした形にすると、読みづらくなることがよくあるのですが、この作文では成功していました。自分の考えや思いをほどよくおりまぜて書きながら、物語をうまく説明しています。ユーモラスな語り口も絶妙です。ムーミンの物語のほのぼのとした雰囲気を、しっかり言葉にできているだけでなく、作文全体の雰囲気にも上手にもりこめていました

 

 

小幡 桂士さん(中2)

『ずる』

(ダン・アリエリー作/櫻井祐子訳/早川書房)

 

金原この本ですが、『ずる』というタイトルだけ見ると親しみやすそうだけれど、行動経済学の本なので、かなり難しい内容ですね。そういう難しい本に果敢に挑戦していることは大いに評価したいです。大学の倫理規定の例はとてもわかりやすかったけれど、そのほかは取り上げている例と言いたいことがうまく結びついていないのが、惜しい。また高校生、大学生くらいになると新たな気づきがあると思うので、ぜひ読み直してほしいです」

 

田中「なぜ不正は起こるのだろう」という、以前から抱いていた疑問を出発点に、この本を読んで、印象に残った文章をいくつか選んで、検証して、最後に考えをまとめています。きちんと構成を考えてから書いている印象でした。少し気になったのは、検証のやり方です。選んだ文章に対して自分は賛成か反対かをのべて理由や例をあげるやり方は、明解ですばらしいのですが、今回は別のやり方のほうがよかったように思いました。この本は全体のうちのほとんどを「つじつま合わせ仮説」の説明に使っています。説明のなかの一文だけをピックアップするのは、かなり難しいことなのです。そこがもったいない。今後も、興味のおもむくままに本に挑戦して考える、そのパワーに期待しています!

 

 

進士 智広さん(中2)

『車輪の下』

(ヘルマン・ヘッセ作/高橋健二訳/新潮社)

 

金原自分の感想に作品の特徴をうまくもりこむという描き方がすばらしい。特に、フライクおじさんがハンスの葬式の場で大人たちを批判する場面のところは、よく書けていると思いました。最後が大人への提言で終わっているけど、じゃあ、そういう状況のなかで自分は何がしたいのか、どうしたいのかを、僕は読みたいかな。大人は大人でいいので(大人はほっといていいです、もうすぐいなくなるし、これからはきみたちの時代になるんだから)、自分はこうしたいというところを書いてください

 

田中あらすじを非常にコンパクトにわかりやすくまとめていると同時に、自分がいちばん言いたいこと、『車輪の下』が「救いようのない話」であることをしっかりのべて、最後に子どもから大人への提言でしめています。段階を踏んで書けている点に感心しました。中盤で、フライクおじさんが「大人たちを批判しながら、自分の力不足を認め」たと書いていますね。ここですばらしい気づきができているだけに、そのあと大人たちの問題点と提言に行数を割いて終わっているのが、少しもったいない気がしました。せっかく主人公のハンスに近い年代なので、ハンス(子ども)の側である自分の意見などをもりこむと、作文の魅力がさらに増すと思います

 

 

松井 彩希さん(中2)

『ぼく モグラ キツネ 馬』

(チャーリー・マッケジー作/川村元気訳/飛鳥新社)

 

金原この本を読んで、心から感動して、その気持ちを伝えたいと思ったのがよくわかって、好感がもてました。ただ、それを読み手に感じてもらえるように書くのが難しい本だなと思います。この世界にはきみしかいない、だから自分を大切にしなさい、というメッセージが、絵と文章によって実感として伝わるのがこの絵本そのもののよさだよね。そのメッセージを取り出して、それについて語ろうとしても、なかなか解説できない。こういう絵本の場合は、何か自分の体験なり、事件なり、他の本での話なりをもってくることをおすすめします

 

田中「この絵本では、人間の「ぼく」が旅でモグラ、キツネ、馬につぎつぎと出会っていきます。旅をしていくなかで「ぼく」がひと言疑問をなげかけると、だれかがそれに答える――そんな哲学的な一問一答が淡々とつづいていきます。「どういう話?」と聞かれたら、なかなか答えられないような絵本です。が、作文を書いた方は、前書きなどを参考にして、なんとか説明してくれました。じつはとても難しいことなので、その努力に拍手を送りたいです。「ぼくは、ぼくのままでいい」という、すてきな言葉と出会った感動も伝わってきました。この言葉と「自分が自分のままで良い」という言葉の箇所は、気持ちのほうが先走って、前後のつながりがあまりうまくいっていないようです。あと少し整理すると、さらに感動が前に出てくると思います

 

 

和佐田 真理子さん(中2)

「ザ・ランド・オブ・ストーリーズ」(全6巻)

(クリス・コルファー作/田内志文訳/平凡社)

 

金原二次創作。シリーズの登場人物レッドとチャーリーの結婚生活10周年という、中学生らしからぬ設定の話を書いていて、その視点がおもしろいなと思いました。シリーズに出てくる細かいところをうまく使って物語を展開させているところには感心します。ただ、視点がころころ変わってわかりづらいのが残念。主人公を一人にして一人称で書き直すと、もっと書きやすく、読み手にとっても読みやすくなって、おもしろい作品になる気がします。シリーズのスピンオフでレッドが主人公の『赤ずきん 女王への道』が出ていることだし、レッドの一人称で書いてみるといいかもしれない。熱意はすばらしいので、次はもう少し読みやすい物語でチャレンジしてくれることを期待しています

 

田中登場人物のその後を描いていて、それが夫婦の倦怠についてという、大人向けの小説を思わせる内容です。夫婦の微妙な関係を知っているかのように書けていましたし、うまい表現があちこちにありました。登場人物たちがシリーズではどんなふうだったかが、セリフなどからさりげなくわかるように盛りこまれているうえに、作者のクリス・コルファーのダイエットコーラ好きなど、トリビア的な楽しい事実も入っていて、シリーズと作者への熱い思いが伝わってきます。気になったのは、視点がころころ変わってしまう箇所です。そういうときに主語が省略されていると、だれの視点の文かわからなくなってしまうので、ほかがうまく書けている分、もったいないです。それでも、全体はしっかり書けていて、とても感心しました(追記:選考後にお名前を教えてもらいました。昨年度も作者とシリーズへの熱い思いを作文にしてくださった方ですね! そうじゃないかと、選考中に金原先生と話していたんですよ。昨年度より、さらに文章がうまくなられていました)

 

 

中原 妃華里さん(高2)

『ことばたち』

(ジャック・プレヴェール作/高畑勲訳/ぴあ株式会社)

 

金原プレヴェールの詩集を読んで、作文を書いたんだね。プレヴェールはぼくも好きで、作文に書いてくれた「鯨」の詩も昔からのお気に入りで、たまに大学の授業でも使ってます。この詩は、ナンセンス+ダダのおもしろさを買っていたのだけれど、戦争の詩と見立てた説明、納得できました。ほかの詩の解釈も説得力があって興味深かったです。気持ちがよくわかるところもあったし、おもしろいと思ったところもあった。言葉のセンスがすごくいいです。「自由な外出」の詩に出てくる将軍については、僕が思っていなかったことを教えられたかな。得るところの多い作文でした。そういえば、高畑勲訳のジャック・プレヴェールの詩集『鳥への挨拶』もお勧めです。あと、『私は私、このまんまなの~プレヴェールのうた~』というCDも

 

田中今まで出会ったことのないタイプの詩の数々に衝撃を受けたことをきっかけに、詩集のなかから3つの詩を選び、自分なりに解釈を試みて、それをとてもわかりやすく書いています。その解釈を読んでいくと、作文を書いた方といっしょに詩を読みといていくような感覚になれて、とても楽しいです。最後に、よくわからなかった点を「謎」として挙げ、そのモヤモヤについて筋道立てて意見をのべられている点も、感心しました。最後まで語調を崩さずに書けている点もすばらしいですね。なお、この本には訳者が注釈と解説を書いた薄い本もついています。それを読むと、作文に挙げた3つの詩には、どれも曲がつけられていたことがわかります。3つがユーモアのある軽やかな詩でもあったことは、その点からもうかがえて、大きな特徴といえそうです。そのあたりにふれてもよかったかもしれません。いずれにしても、ほかの詩の解釈も読んでみたくなる、魅力的な作文でした

 

 

中俣 由羽さん(高3)

『オペラ座の怪人』

(ガストン・ルルー作/平岡敦訳/光文社)

 

金原『オペラ座の怪人』の裏にあったもうひとつの物語、という二次創作。オペラ座のなかのこと、とくにボックス席の位置関係によって音が聞こえたりする様子が、うまく描写できていて、それを聞いたヒロインが相手の動作を想像しているところも、上手に書けていました。小編としてよくまとまっていて無理がない話になっています。本で描かれていた事件から33年がたって、作者ルルーが当時のことを書いたという設定も、しっかり考えられていると思う。最後のセリフもいいですね。目が見えなかったという設定は途中で想像がついてしまうので、もしかしたら、違うアイデアをがんばって考えてみてもよかったかもしれない。全体としては、とてもおもしろく読みました

 

田中作者ルルーが『オペラ座の怪人』を書いたあと(オペラ座の事件の33年後)、ふたたびペンをとったという設定で書かれています。事件と同じころに起こっていたもうひとつの出来事を、ルルーが人から聞き取って語り直した、という形。ですので、作文は最初、ルルーの語りで本と同じく「オペラ座の怪人は実在した」から始まっていて、そのあとは、もうひとつの物語が、本の物語とときどきリンクしながらつづきます。本を知っていると、とてもおもしろいですし、知らなくても物語自体がしっかりできているので、楽しめそうです。歴史ある劇場が醸しだす豪華で厳かな雰囲気を表せている点もお見事。たまに単語単位でひっかかる表現もありましたが、最初から最後まで一定のトーンで書けていて感心しました。ラストもとてもいい。「彼女」の会話文で終わるところも、きまっていました

 

 

野上 日菜子さん(高3)

『幸福な王子』

(ワイルド作/小尾芙佐訳/光文社)

 

金原原作は王子とツバメのあいだに築かれた関係を描いた話なので、楽園にいた王子とツバメを日本に送ってとなると、まったくちがう話になってしまうけれど、それはそれでパロディとしてアリだと思います。コロナ禍で修学旅行の行き先が次々に変わっていくという導入は、とてもおもしろく書けていました。ちょっとひっかかったのは、金箔やサファイアを売っても、そのお金で治療薬の開発から販売までをまかなうのは無理なんじゃないかということ。だったら、ささやかな金箔やサファイアで、何ができるかを書いたほうがよかったかもしれない。それと、話がなんの障害もなくめでたしめでたしに進んでしまうと、読み手としては物足りなさが残るので、その点の工夫を考えてみるといいと思います

 

田中『幸福な王子』のその後を描いた二次創作。楽園にいた王子とツバメが、困っている人たちのもとへ送られることになり、その選ばれた人たちが日本の高一の女の子や大一の男の子で、というのも、ふたりはコロナ禍のせいでがっかりなことが重なっていて……と話が進んでいきます。このあたり、リアルで、具体的で、実感がこもっていて、非常におもしろい! おしいのは、2枚目「また、」から一般的な話に移るところ。コロナのおかげでいい面もあった、とも読めて、前の話とつながりがあまりうまくいっていない印象です。とはいえ、作文を書いた方の目を通した今の日本が物語に描かれていて、興味深いものでした。その鋭い観察眼をこれからも、ぜひもちつづけてください

 

 

長谷川 彩華さん(高3)

『13歳から知っておきたいLGBT+』

(アシュリー・マーデル作/須川綾子訳/ダイヤモンド社)

 

金原本を読んだことをきっかけに興味をもったんだろうけど、よく調べてますね。関連の資料をたくさん探してきて、きちんと整理して、説明しています。しっかりまとまっている作文で感心しました。最後のほうに、大人のLGBTQの寛容度についての考察をもってきた構成もよくできています。法案を通してくれるのでは、という意見は少々ひっかかりましたが、老若男女を対象としたLGBTQを知る教育をすべきだという提言やその方法には、説得力があります。少し参考文献に頼りすぎているところが気になりますが、いいたいことがストレートに伝わる書き方は、高く評価できます

 

田中今の高校生は学校の発表学習でLGBTQ+をテーマに選んだり、興味をもったらどんどん関連の本やサイトから情報を得られたり、という環境にいるのですね。作文の導入に書かれているそのことからも、作文を書いた方が集めてまとめてくださった資料の内容からも、LGBTQを知る教育が必要だという意見からも、高校生の知的好奇心とまっすぐな心が感じられて、非常に頼もしい作文でした。知りたいと思ったとき、変えたいと思ったときの若者のパワーは、すごいですね! 作文に力がみなぎっていました。しかも、ただ思いのままに書きちらしているわけではなく、構成を考えて、読み手にわかるようにまとめられています。感心しました(追記:選考後にお名前を教えてもらいました。昨年度、優秀賞をとられた方ですね! 前回選ばれた本と作文を思い出して納得。感度の良さが抜きん出てすばらしかったです)

 

 

総評

 

「読書探偵作文コンクール」の選考は毎年楽しみにしています。なにより、本を読んで、好きなことを書ける(描ける)というのがいいですよね。それこそ、マンガでもいいし、日記風にまとめてもいいし、二次創作でもいいし。大学で30年以上教えているのですが、若い人たちの文章力は素晴しいと思います。「最近の若者は本を読まない」とか「最近の若者はろくな文章が書けない」とかいう大人がいますが、それは大人がろくに若者の文章を読んでいないだけのことです。そんな意見は無視して、好きなように書いてみてください。ただ、そのとき、ちょっとだけ、これを読んだ人はどう思うだろうと考えてみてもらえるとうれしい。それって、作家の目で自分の作品をみるということです。なんとなく、かっこいいと思いませんか。

金原瑞人

 

 昨年度にひきつづき、新型コロナウィルスの影響がつづくなかでコンクールがおこなわれました。不自由な状況で、翻訳書を読み、作文を書いて応募してくださったみなさん、ありがとうございます。今年度は、言葉に曲をつけるという初めてのパターンの応募作品があるなど、この状況を物ともせずにさまざまな作品が届いて、うれしかったです。関係者一同、感心したり感動したりしながら、すべての作品を審査しました。1次選考に残らなくても、がっかりしないでくださいね。みなさんの挑戦は、受け止めています。さて、受賞作に関してですが、高校生の部では最優秀賞が2作品になったことからもおわかりのように、いずれも力作でした。受賞作はサイトに掲載されますので、ぜひお読みになってください。受賞した方々が、本を読みこんで自分のものにしていることがわかります。本の中身を自分のなかに取りこんだあと、自分の言葉をしっかりあやつって書いているのです。すばらしいですね。本を読んで文章を書きたい方は、参考になさってください。と、いろいろ書きましたが、このコンクールでは、読むことと書くことを楽しむのがいちばん大事です。まずは、広い世界からやってきて翻訳されたさまざまな本を読んでみてください。それで何か書きたくなったら、コンクールに応募してくださいね。来年度もお待ちしています。

田中亜希子